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2017年のデジタルマーケティング展望 ( 前編:2016年のふり返り)

 クリスマスも終わりいよいよ今年も残すところあとわずかとなりました。という事で一年をふり返り、来年を展望する投稿を頑張って年内に書き上げたいと思います。

 前編となる今回は「2016年のふりかえり」です。※年末で色々と書きたい事がありすぎて、いつもより長いです。

❖2016年は何が盛り上がる予定だったか覚えてます?

 今年2月の下記投稿で2016年のデジタルマーケティング界隈のトレンドについて欧米メディアの予想を横並びにして比べてみました。性格の悪い私はこういうものを見直すことが大好きなので、各社に対して悪意は1ビットもありませんが、一年の締めくくりとしてレビューした上で年越しを迎えたいと思います。

今年の一月の投稿はこちら。

takao-chitose.hatenablog.com

 いちいち読み直してもらうのも難ですので、2016年に中心となるであろうトピックの中で各社の予測を横並びにしたもの再掲しておきます。

http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/t/takao_chitose/20160201/20160201113853.jpg

 7社のサイトを横断して、各社が掲げる予想を列記しています。少ないメディアで4つ、多いメディアで10個の予想を立てています。上記項目を私の観点で見直す前に、各社が自らの予測を振り返っているかどうかをまず確認してみたいと思います。

 少なくとも日本国内的にはメディア事業者の倫理観やコンプライアンス意識の弱さが改めて問われた一年だったと思いますが、上記のグローバルに発信しているメディアさんは果たして自らの予想を振り返っているのかどうか。メディアとしての矜持が問われる瞬間です。

❖各社のふり返り状況
  1. Search Engine Journal→ふり返りなし
     サイト内を調べた限りでは、同様の粒度でのふり返りはありませんでした。既に、Search Marketing: What To Expect in 2017 | SEJといった予測記事が出ています。GoogleやBingといったサーチサービスごとでの「今年の整理」のような投稿はありましたが、対応するものが無いので減点です。
  2. Smart Insights→ふり返りなし
     こちらもふり返りは無し。The Top 3 Marketing Trends for 2017 - Smart Insights Digital Marketing Advice といった予測は出しています。2016年は10個も選んでいましたが、2017は3つに絞っています。また、Social Media や Ecommerceなどカテゴリを絞って予測を出しているあたりが昨年との違いとして確認出来ます。ふり返りをしていないのは減点ですが、このサイトはLibrary やテンプレなどを気前よく配布しているので (プロファイルは取られますが) 良しとします。
  3. NewMediaDigital→ふり返りなし
     デジタルサービスのエージェンシーです。特別メジャーな会社でも無いですが、2016年の見通しが6つBlogに出ていて筋が良いと感じたので取り上げてみました。が、ですよ。今、久しぶりにblogを確認したところ、ふり返りは無く、ついでに2017年の見通しもありませんでした。事実としては2016年の予測を出してからこの一年の間に5つしかポストしていないようです。これはやや期待外れ。
  4. Business 2 Community→少しだけあり
     こちらのサイトも情報量が多く、役に立つe-book等のツール類をプロファイルと引き換えですが入手可能な良質なサイトです。トレンド系の記事で目につくのは2017年に向けたものがいくつか見当たりますが、一つだけ、2017年を展望する為に2016年を簡単にふり返っている記事がありました。と思ったら正しくは、記事では無くてスポンサードでしたので、そこが惜しい気もしますが内容は悪くないので良しにします。

    www.business2community.com

  5. Commcreative→ふり返りどころか。。。
     こらちはクリエイティブショップですので、情報量というよりは自社独自の視点で深い提言を出していくのが特性ですが、なんと2016年の予測記事は削除されていました。別に当たり外れなんて誰も気にしないから消さなくてもいいのにどうしたんでしょうか。残念。 Inc. が選ぶFastest Growth Company 5000にも選出されているので、会社そのものは成長過程なのだと思いますが、よりクリエイティブに寄ってきているようなWebの作りですので、トレンド予測というよりは自らの美学や視点で勝負、という事なのかもしれません。

  6. digital information world→斜め上の展開
     Infographicや具体例を出しながらWeb Design Trend を解説したりしてくれるので、デジタルマーケティング領域の中であまり得意じゃない or 関心が低いものが取り上げられている場合はリファレンスとして有効で、EvernoteやOnenoteに保存しておくと後で便利な事があるサイトです。2016年の振りかえりと呼ぶにはまだ早い8月25日に、

    www.digitalinformationworld.com

    といった記事を掲載しています。もともとこのサイトの予測は以下のようなものでした。

    f:id:takao_chitose:20161227003459p:plain

     これに対して、8月の時点ではこのような感じでした。2015年12月に出た2016年の展望とこの8月に出た2016-17にかけての展望では執筆者が異なりますので、書き手の変節という訳ではありませんが、同じ媒体としての共通点はコンテンツとビデオであるという事は伝わってきます。

    f:id:takao_chitose:20161227004006p:plain

     自らの予測のふりかえりでは無いですが、年の途中で新しい展望を持ってくるあたりは『占いの精度を確認するより、もう一回占ってみるのがよかろう』という意味で嫌いでは無いです。

  7. Entrepreneur→ふり返りあり
     その名の通り、アントレプレナー向けのサイトですが、なかなか肉厚なサイトでして、発信力は相当高いです。そして、ここへ来てやっと振り返りに近い記事が一つ出てきました。

    www.entrepreneur.com

    いやー、良心を感じます。記事の主旨は2017に向けた展望ですが、前段として今年浮き彫りになった課題をいくつかピックアップしています。例えば
    ・Ad Fraud が未だ大きな問題である事
    ・data driven marketing の前にdata collectionでスタックしている事
    ・Marketing Software が決して使いやすいものでは無い事
    などです。フィールドでマーケティングに取り組む側の視点で見ても「そうだよね、分かる!」と同意できる良い記事でした。詳しくは上記リンクをぜひ読んでください。
     このサイトに敢えて苦言を呈するならば、「〇〇の為の5つの△△」みたいな記事が多い事。実際、このサイトには10個程度の起業家向けに必用なセクションがあって、私は主にMarketing と Social Media を読むのですが、Marketingの1ページ目を上から眺めただけでこんな感じです。全部でいくつ覚えればいいんだよ、という感じ。

4 Strategies to Boost Customer Loyalty
8 Steps to Get Your Product Successfully Reviewed by an Influencer
6 Ways to Go Mainstream and Develop Your Brand
20 Ways to Grow Your YouTube Live Audience
4 Keys to a Stable Business
5 Tips for Growing Your Small Business This Holiday Season

 ❖各社が最も重要視していたトレンドに関して 

 2016年の予想として各社が1位に記載していたのが以下のトピックでした。トップはContent Marketing で3つのサイトがトップ事項として予測していました。

  • Social Ads
  • Seamless Customer Experience
  • Content Marketing x 3
  • More Video Ads
  • Mobile Surpasses Desktop

上から順番に自分の経験と照らし合わせると、一番下の"Mobile Surpasses Desktop" 以外は実感ありです。

  • Social Ads
    Facebook広告における個人の実態に即したターゲティング機能の向上はフルファネルでのマーケティングコミュニケーションにおいて強力な武器になり得る事と、ある意味GDNなどとカニばらないので、この二つを軸に後は補完材料みたいに使うといった型が作りやすくなりつつある。
    ・また、Instagramにおいては未だに場違いな広告も散見されるものの、ファッションや高価格帯の耐久消費財などのクライアントの広告は結果的にネイティブ広告レベルに馴染んでいるものも見かけるので、メディアとしてのFacebookの「集金力」は今しばらく強いポジションが続くと見ています。
    ・日本においてはLINEが6月に運用型広告を開始するなど、シェアのあるアプリやサービスがプラットフォームとして機能し始めている点が見逃せません。ゲームと広告とスタンプで食っている会社ですので、後はアジアにどこまで浸透できるかにより、日本企業にとってもAsia Pacific を意識したマーケティング活動に役立つプラットフォームになる可能性はあります。

  • Seamless Customer Experience
     特にコンシューマ領域においては、ここ数年のホットトピックであるオムニチャネルの発達に加えて、フィンテックに象徴される決済の多様化、といったトレンドが重なる事で、お客様が違和感なくブランド経験或は購買経験が出来るように「仕組み」を整える機運が高まっていると思います。
     決してデジタルだけでは完結しない話ですので、いきおい全社的、あるいは商流そのものにまで踏み込むような大きな話になるケースもありますし、その過程で3PLのサービスレベルに依存するような極論も社会的に関心を呼ぶような事案も発生しているようです。マーケティング部門がバリューチェーン全体に対する視野を持つことが求められるケースも今後は増えていきそうです。

  • Content Marketing x 3
     B2Bにおいて顕著だと思います。顧客都合で購買サイクルや内容が決まるBusiness Marketingにおいては、一年のある特定期間のキャンペーンという売り手都合の施策では購買などのアクションにつながらない見込み顧客は多数存在します。
     Marketing Automation の普及は、この無駄を将来の養分に変えていく機会として活かす手段としての期待値が高いからです。その際に大切なのは、顧客とのコンテクストに応じたコンテンツの提供です。これは小売業で考えれば店頭のアソートメントと同質的なものと言えるでしょう。
     たまにコンテンツマーケティングというものを「面白い」とか「バズる」といった意味合いで捉えているジュニアな方がいますが、本質はそこでは無いです。このContext 理解、Contents提供, Customer Journeyの設計、という3つのCは非常に重要な組み合わせだと思っとります。

  • More Video Ads
     TVというメディアが広告媒体としては没落しつつある中で、動画自体のニーズはむしろ高まり続けていると思います。私の中では、「動画はシャワー、静止画は湯船」みたいな関係です。なんじゃそりゃ、ですね。
     伝える情報量や印象など、静止画と動画は特性が違いますので、使い分けが大事ですよ、と。その時にそれぞれに何を求めるかの隠喩がシャワーと湯船になります。熱くて勢いのあるのが気持ちいい動画と、浸かってじっくり思いを巡らす静止画、みたいな感じです。
     インストリームなど「出し方」、尺やクリエイティブなどの「コンテンツ」、SNS上でのライブやリアルイベントとのシンクロなど「組み合わせ」。これ以外にも分類の仕方はありそうですが、動画が持つインパクト、表現力、ストーリー性、情報量、バイラル性などはダイナミックなコミュニケーションを成立させる要素として動画が欠かせない事を者がったていると思います。これまで、テキスト→写真→動画と来たコミュニケーションやメッセージの中心軸が今後はVR/AR/MRといったリアルとデジタル世界が融合されたものにシフトしていく可能性が高いですが、動画はVR/AR/MRの世界でも適応可能なフォーマットですので、まだまだ主役であの時代が続くと思います。
     これに比べるとテレビCMは話題づくりや二次的なバイラル性 (デジタル広告レベルのターゲティングとトラッキングが出来る訳では無いので二次的としています) などでは強みを持ちますが、いかんせん大砲というかコントロールの悪い弾道ミサイルみたいで、時代の終焉を感じます。

  • Mobile Surpasses Desktop
     唯一、「うーん、違うな」としたのはこれ。Mobile Surpasses Desktopで言わんとする所は、2015年頃にはピークに達していて、既に共通認識になっていると思います。例えばの話、今年の2016年4月のTechCruch の記事ですが、Facebookのモバイルユーザ比率は92%とあります。これはもう、デスクトップかモバイルか、といったアクセスデバイスのフォームファクターの話をしても意味が無いです。様々なデバイスでアクセス、というより"ネットワークにalways on" している前提で、問題はデバイスでは無くてそれぞれのOccasionとSituationの理解にあると思う訳です。もっと言えばOSも一般消費者にとってはどうでもいい存在だと思っています。そういう趣旨のことをNewsPicksでもコメントしたのは今年の4月。

    newspicks.com

❖ここまでのまとめ

 という事で7つのサイトを再確認しながら見てきましたが、ふりかえりと呼べる記事をあげていたのはBusiness 2 Communityと digital inforamtion world だけでした。

 もともとこれらのサイトの選定基準は

Google で 、 "Digital Marketing 2016" で2 ページ目までに出てきたWebサイトから要素を拾っています。

 普段見ているサイトかどうか、著名なサイトかどうかは一切無視して、単に、検索結果が上位なところを選んだ事になります。ここはGoogle様のアルゴリズムに全幅の信頼をよせています。

なので、選ばれたサイトはそれなりに優良であったはずですが、残念ながら7打数2安打という「ふりかえり率」でした。

 情報量ではこの二社よりも優っている媒体も山ほどあると思いますが、アルゴリズム的には上位だった訳ですのでこの率の低さはエージェンシーやメディアといった発信や提案を生業とする企業にとって改善してもらいたい体質みたいなものなのかもしれません。自らが発したものをふり返るのは特にメディアは体質的に嫌う筋の話だと思いますが、それがスポンサードであれ、年度途中の軌道修正的な含みのあるものであったにせよ何かしら見直しをかけていた二社*1 は今後もウォッチ続けようと思います。

 別に私は各種媒体に自らに潔癖な占い師であってほしいと幻想を抱いている訳ではありません。予測の当たり外れの検証そのものは目的ではなく手段です。媒体、エージェンシー、コンサル、シンクタンク、なんでもいいのですが、発信者である以上は有限な責任感覚を持ってほしいのです。別の言い方するとAccountabilityです。自らが発信内容を検証出来るCapabilityを持つ事で、結果的には生き残りにつながり、読者や広告主との良い関係作りに寄与するのではないか、と考えているだけです。

❖来年はどんなことがハイライトされるのか?

 話がメディア論みたいになってきたので元に戻します。
 この手の予測系記事が出てくるのは年明けが多いので、1月下旬ころにもう一度上記の4~5媒体に絞って、2017年度版のリストを作ります。
 この投稿の後編では、他人の予測に評論するだけではフェアでは無いので、私の予測(=勘ですね)を先に記録しておくことにします。

  1. デジタルマーケティングという言葉の陳腐化が始まる
  2. マーケティング職の分化が進む (オールラウンダーとニッチ)
  3. マーケティングオートメーションがもたらすチャネルコンフリクトの顕在化
  4. データハンドリングの困難さが際立つ
  5. B2Bにおけるダイレクト化、B2Cにおけるソーシャル起点の加速

  だいたいこの先2年くらいのスパンで見たときに重要な事である、と社長でも役員でも無い一兵卒のわたくしの見立てに過ぎませんが開陳しておきます。所詮は自分視点なので普遍性とか世の中全体との整合はともかく、心の中では自信があります。社会的認知と信用が圧倒的に足りないので、外れても誰にも迷惑かからないので安心しています。

 2017年にこれらのトピックが世の中的、業界的に話題に上ったかどうかはフェアにレビューする予定ですが、どちらに転がっても私にとっては学びです。

 という事で、7500字越えてしまったので、続きは後編でお楽しみください。 

 

*1:寄稿する形式が多いので、編集人がそういった意識をもってコンテンツを構成しいたかは確認できないので、手放しでの評価は出来ません。