軽めの仕上がり (はてな編)

Curiosity is the most powerful thing you own.

「熱狂度」という感情の指標化について

 知人の池田さんが社長を務めてらっしゃるトライバルメディアハウスさんが意欲的な取り組みをされています。ちょっと長い文章になりそうな気もするので先に文意だけ書いておくと、

  • 定性的な消費者の態度を定量化して理論構築するのは大変なこと
  • ブランドにとって重要な「ファン」という存在をどう因数分解するかという試み

という意味で良いと思います。

 どこぞのコンサルとか広告代理店が出すのではなくて、サービス事業者が自ら産み出そうとしている所に良心が感じられて「一緒に何とかしたいですね(私には何の力もございませんが。。)」という気持ちになります。

 売上に「良い・悪い」という観念を持ち込むあたりは、企業の永続性という命題に対して大きな問いを投げかけているような野心も感じます。(そんな大風呂敷を広げているのか確認してないので下衆の勘繰りです) 

  さて本題。

 

prtimes.jp

❖概要をまとめると以下のようになります
  •  持続的な成長には短期的な売上より顧客の購買動機となった『感情』的な側面とそこにいたるプロセスの理解が重要である。
  • 実際のマーケテイング活動においては、短期的な売上獲得に向けたプロモーションが存在する事で、ロイヤルティを伴った良質な売上と、伴わない悪質な売上が混在しているのが実情である。
  • では「良質な売上」とはどのようにして測定する事が可能であるのか、という問いに対する一つの回答として同社が提案するのが「熱狂度」という指標である。
  • この「熱狂度」と顧客ロイヤリティの数値化指標として知られているNPS (Net Promoter Score = 正味推奨者比率 ) を代用変数的にX軸に、熱狂度をY軸方向にとると、同じNPSスコアでも、熱狂度が高い方が年間購入金額 (消費量、利用量など含む) に1.3倍の開きがある事が確認された。
❖ここで私の頭の中に浮かんできた事を記録しておきます

Q1 : 個々の生活者が持つ購買力をどう評価するか?

この点については質問してみましたところ丁寧に回答を頂きました。

 

 高価格商材の場合、価値観だけでなく相手の経済力などもありますので、例えば車の場合「BMWのX5めちゃくちゃ良いから買いなよ!」という直接的な推奨よりも、「山田さんが乗ってるBMWかっこいいなー」という影響価値により相手が気になったり欲しくなって、相手が「山田さんのBMどうですか?大きめのSUV欲しいんですよねー」と聞かれた時に「お、車買うの?X5超オススメだよ」という推奨が発生するケースが多いと思ってます。

 この回答に基づくと、高価格帯の商材 ( 耐久消費財の場合が多いと思いますが) においては「熱狂しているから推奨する」のでは無くて、そのカテゴリに対する購買力がある前提の消費者からのキューに接触した熱狂的な人が「積極的に(その探索者に)銘柄を推奨する」という事になる、と理解しました。

 この理解が正しいとすると、その推奨者は「熱狂度は高く、NPSは中立」という属性になるので、上記の相関表で言うと上段中央の象限に該当する事になると思います。

 念のため、「何故NPSは中立」に位置すると考えるのかを補足する意味で、そもそものNPSの質問文を確認しておきます。

How likely is it that you would recommend our company/product/service to a friend or colleague?
 (Wiki記載を引用しています)
*1

 つまり、「推奨する事があり得るか」を聞いているので、上記のような受動的に引き起こされる推奨が予想されるケースでは、少なくとも積極的推奨と考えるべきではない。故にNPSの尺度で言えば中立 (Neutral ) と仮定するのが妥当でしょう、という考え方です。

Q2 : 熱狂と推奨というのは同じベクトル?

熱狂度というものは以下のようにして算出されています。

f:id:takao_chitose:20161211133041j:plain

(画像はPR TImes さんに掲載されていたものをキャプチャ取っています。)

 回答の選択肢が「ハマっている」から「何となく使っている」という序列尺度と呼ぶには微妙な感じもしますが、聞き出したいニュアンスは伝わります。質問の設計として適切かどうかは統計調査の専門家でも無いので言及は避けます。

 ただ、この質問は「当該ブランドへの関与度」に置き換え可能な印象です。質問するとしたらブランドスイッチングコストを聞き出すような問いでも同じような性向が分類できそうです。

 その違いを明示的にする為には、例えば、x軸にNPS、y軸に購入額や消費量を取った場合において各象限の熱狂度はどのうな分布になるのか、といった分析なども行ってみる事があるいは有効なのではないだろうか、と思う次第です。

 この私の疑問については、統計に明るい方が、多重共線性という視点で質問をされていました。良い質問だと思います。

かっけー。私もこういう理知的に質問力を身につけたものです。

 こちらの方の質問2は「質問1の延長線では? 」と思っていたのですが、私の勘違い。リリースに出ていた絵を見直して気がつきました。各象限に示されている「消費量」というのは、「推奨された人の消費量が増えた ( = ブランドスイッチが起きた) 」だと思っていたのですが、「熱狂的な人で推奨意向が高い人の消費量は高い」という意味なのでした。ちゃんとリリース読めよ、って話ですね。だとすると私のQ1は何となく的外れな気もしてきたのですが、ここまで書き進めてしまったのでログとしてママイキにしておきます。

 

Q3:健全な売上と不健全な売上

これは気持ちは分かるけど、or じゃなくて and であると思っています。

重要なのは、目の前の売上が、値引きやプレゼントキャンペーンなどの短期的・強制的なものによって得られた「不健全な売上」なのか、顧客のロイヤルティや熱狂によって得られた「健全な売上」なのか、そのプロセスにこそあります。

 「熱狂的な人から得られる売上は健全である」という仮説をどう証明するかですね。

何故ならば、以下のような点も考慮されるべきだと考えているからです。

  • 熱狂的な人は値引きやキャンペーンに反応しない、と証明できていない。
  • 熱狂的な人の購買こそが善であると限定すると、FMCGなどの低関与な消費者が多数を占めるカテゴリの存在と整合しない。
  • NPSはその計算式の宿命として、マーケティング対象から「非推奨者」を外すことでスコアそのものは改善します。つまり縮小均衡的な事にも陥りかねないという点を考慮する必要がある。(「熱狂」が「NPS」と同じ価値尺度を有している場合はそういったものを内包しかねない。) 

 例えば、かつて流行ったペプシのボトルキャップを大人買いする人はペプシにとって「熱狂」とは呼べなくなります。なぜなら購買理由が「ペプシ愛」では無くて、「ボトルキャップ愛」の可能性を排除出来ないからです。

 ただ、私は「ペプシを飲んでくれそうな人に対して購買インセンティブが働くようなキャンペーンを仕掛けた結果、実際に反応してくれた」事が「不健全な売上」だとは思いません。POPでの働きかけとしては良かったと思います。

  とはいえ、現在のペプシのプレゼンスを考えると、やっぱりそういうマーチャンダイジングで掴んだきっかけを長期的な関係に発展させる事が上手くできなかったのかな、という認識を持っています。

 なので、このあたりは12月14日に開催されるセミナーに参加して、もう少し理解してから言及したいと思います。

❖おわりに 

 ブランドに対して熱狂的なファンが増える事はとても良い事ですので、そのファンの熱量を指標化して、収益性と成長性に役立てていくにはどうしたら良いか、という視点には激しく同意しているので、こうしたいくつかの懸念を理論的、あるいは論理的にクリアしていく事で「使えるマーケティングの道具」になっていく事を期待したいと思っています。

 ちなみに私、NPSそのものについては「やや疑問を感じつつ、それの限界を知った上で活用していけばいいんじゃないでしょうか? 」というどこに分類されるのかよく分からない座標を取っています。そのあたりのぼやきはこちらにも。

takao-chitose.hatenablog.com