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アメリカ大統領選 : 保護主義が台頭するのか?

そろそろ大統領選も佳境ですね。

 既にアイルランドのブックメーカーが10月に入って早々に「ヒラリー勝利」で支払いますとか発表していましたが、これ、トランプに賭けた人から文句言われないんでしょうかね? 

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  さて、そんな話はさてておき、気になったのがこちら系の報道。

www.nikkei.com

こちらは毎日新聞

佐々江賢一郎駐米大使の9月30日の記者会見での発言より

16年大統領選 保護主義助長を注視 佐々江駐米大使、両候補TPP反対に

 ❖記事のポイント
  • 民主、共和両党の候補が貿易について非常に後ろ向きの立場を表明し、米国の保護主義的なムードを助長している。
  • 両党候補が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に反対している
  • 両候補の日米関係を巡る議論について「両候補とも日米同盟が重要だと思っていると確信している」

 当選してからポリシー変えるのは許されると思っているので、結果的にTPPも前向きになってもらえれば日本的にはありがたいところなんでしょうけどね。

 アメリカが相対的には国力で世界一でありながらも、絶対的な馬力では世界のおまわりさんを担う意志が低下しているのは事実です。それのおかげで地域紛争やらロシアの強引な領土拡張などがまかり通ってしまう要因になっていますが、そういった地政学的な課題について少なくともヒラリー陣営はよくよく分かっているはずですが、それでも環太平洋の貿易協定の話よりは、国内の景気や雇用、移民対策といったファクターの方に寄らざるを得ないのは、そっちの方が国民にとっては切実な問題であり、国のリーダーにはまず身近な問題を解決してもらいたいという意識の表れなのだと思います。こういうのはアメリカに限った話では無いですね。人類普遍の性質なのかもしれません。

 

❖期待感の乏しい大統領選挙

 エキセントリックな実業家であるトランプと輝かしい政治キャリアを持つクリントン。見事に対照的な候補ですが、今までのパターンであれば、アメリカ初の女性大統領という分かりやすいコンセンサスが推進力となっていたのではないかと思うのですが、そういった盛り上がりがあまり伝わってきません。

 むしろトランプが共和党代表にまで上り詰めてしまう所に今のアメリカが抱えている内在的な問題が見えてきていて、エリートや知識層といったエスタブリッシュメントへの反発、白人の相対的減少と根強い人種差別問題、貧富の格差の拡大、若年層における失業率など、移民対策など国内マターがとても多い印象です。

 アメリカ的正義のドライバー (Power & Charge) が機能している限りは乗り越えられてきたマイナス面が、ここへ来て押さえきれないイシューとなってしまっているように見えます。

 大胆な変化を望むならトランプ、現実的な維持変革を求めるならクリントン、というのが一番単純な分け方だと思いますが、産業界からするとクリントン派が多いのかな、という印象です。おりしもフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領がその自由奔放に見える放言っぷりで環太平洋諸国を惑わせているこの頃だけに、アメリカがトランプになるのはさすがに困るぜ、という所でしょう。 

 産業界でも、ユニクロの柳井会長兼社長の発言や、LinkedIn創業者のReid Hoffman氏の一件ユニークな活動などに接すると、「マジで勘弁」というのが伝わってきます。

 その反面、ヒラリーがベストチョイスかというと、そういう事を明言する人があまり目立たないのもまた現実。多分、「ヒラリー政権になると何が起こるのか」という点がトランプのそれと比べて分かりにくいことも要因なのではないかな、と。

 ここにも今回の大統領選における悩みがある訳ですが、裏を返すと中国やソ連からすると、アメリカの世論の足踏み状態をじっくり観察して、今後の外交を優位に進める備えをしているのだろうな、と。

 今朝 (11/8)の報道を見ている限りでは、ヒラリー当確と市場が見做せば様子見をしていた資金が株などのリスクマネーに戻ってくる事で、一定の底上げが期待できると言われているようですので、外野のコンセンサスとしてはヒラリーで確定路なんでしょうね。ただぬぐい切れない残り火のようにトランプが巻き起こした争点は、新大統領にとっても頭を悩ませる課題である事だけは間違いなさそうです。 

www.nikkei.com

❖なんで保護主義が好ましくないか

  さて、最後になんで「内向きの米国」が気になるかというと、アメリカって歴史的にモンロー主義に代表されるように孤立主義を取りがちです。初代大統領のワシントンの告別演説で語られた 、

「世界のいずれの国家とも永久的同盟を結ばずにいくことこそ、我々の真の国策である」

という非同盟主義的な価値観が流れています。

 真珠湾攻撃に端を発した第二次大戦を経てアメリカは「無関係ではいられない」という時代の流れに適合しはじめて、第二次大戦後のソ連の台頭を前にしてついに覇権主義(介入主義) に宗旨替えしていく訳です。世界の舞台に引っ張り出す遠因の一つが日本の見当違いな宣戦布告がきっかけというのも皮肉な話ですが、ここへ来て米国が内向きになると、積年の課題である沖縄をはじめとした米軍基地の問題や、対中国、北朝鮮といった日本の国益に直結する要因に対するスタンスが変わってしまう事に加えて、とはいえGDP一位の国が「僕知らない。自分が一番だもんね。」というこじらせ方向に舵を切ると、声と図体が大きい分だけアメリカと経済的・軍事的な利益をある程度共有している関係諸国にとっては偉い迷惑です。

 TPP反対とは言ってもいきなり保護貿易まっしぐらという事は無いと思うので、二国間協定といったものになるのだと思いますが、話がここまで煮詰まった所でのちゃぶ台返し的な展開は先々にしこりが残りますので、アメリカにとっても得は少ないと素人目には思う次第ですので、ぜひテーブルに戻ってきてほしい所です。

❖日本ってどっち方向がいいんでしょうね?

 アメリカのように外交力、軍事力、基軸通貨という意味も含めての経済力、人口と多様性があれば日本流のモンロー主義を模索することもオプションになるかもしれませんが、国土、人口、地政学、民族学などあらゆる観点で環境が違いますので、どうせ模倣するならヴェネツィアあたりを見習って、海に囲まれた地勢を活かしつつ、商工業で存在感を発揮していくのが日本にとっての方向性なんじゃないの、と思う次第です。要はバランス感覚。外から取り入れて発展させるセンスと自己利他というか利他主義的立ち回りのできる商魂だと思っています。

 もっとも、1000年以上に渡るヴェネツィアも歴史の流れの中で衰退を免れ得なかったのですが、そのあたりの経緯については塩野七海さんとかの作品を読んで頂くか、東京大学名誉教授の月尾嘉男さんの著作などを読んで頂く事をおすすめしますが、国が辿る道という意味で同質性の高い部分が感じられると思います。 

 

❖まとめにかえて

 長い事アメリカ企業で働いていると、アメリカ的価値観とか思考回路といったものは理解できるようになります。そこは企業経営も政治も大きな価値観のフレームには共通項が多いな、と感じています。

 一方で、日本はソ連との領土問題や中国とのバランス等、アメリカ以外の諸国との外交も主権国家として対処しつつ、主要同盟国であるアメリカのご機嫌を損ねないようにするという高度な立ち回りが求められているので、今回の大統領選の結果から年末のプーチン訪日にかけての対応が日本のこの先の立ち位置を左右するんだろうな、と素人考えしています。

 どちらの大統領になるから会社の戦略がいきなり変わる、というような事では無いですが、リーダーが変われば社会が変わるものなので、ビジネスも無関係ではいられません。犠牲や衝突を止む無しとした変革なのか、犠牲や衝突を回避する努力をした上での変革なのか、アメリカという国が変わろうとしているのは、この時代に生きている者としてとても興味深く見届けておきたいと思っています。